
2018.05.26

こんにちは。ウィンゲートトレーニングセンター専属トレーナーの岡田英之です。昨日に引き続き投稿させて頂きます。
「ステロイド」という言葉を聞くとどの様な印象を持つでしょうか?
・・・など、様々な意見が出てくることでしょう。薬剤師として働いていると、体にとってあまり良くないイメージを持たれている方が多いように感じます。
ただ、ちまたで言われている副作用などには、事実とは異なるものもあります。また、「ステロイド」という単語だけが独り歩きしていて、色んな薬がひとくくりにされている印象も受けます。
今回は「ステロイド」という言葉について整理をし、正しく使用するための豆知識をお伝え致します。

高校の化学で見たような、嫌いな方には拒否反応が出る化学構造式の話です。
「ステロイド」とは構造式の中に「ステロイド骨格」という構造が含まれる物質のいわば総称です。そして、ステロイドはもともと体の中に存在する物質でもあります。
<ステロイド骨格を含む体内の物質>
それぞれ体の中で重要な役割を果たしている物質です。
各々その役割と薬として使用した場合の効果は異なるため、それぞれ別物としてご理解ください。

主に男性の精巣から分泌されるホルモンです。女性の体内でもわずかに合成されています。原料はコレステロールで、体内で複雑な経路をたどって合成されます。
その作用は次の通りで、
などが知られています。男性の方が女性と比べて筋肉質であるのは男性ホルモンの影響です。
筋肉の成長促進作用があり、ドーピングの世界では「アナボリックステロイド」、いわゆる「筋肉増強ステロイド」として知られているものです。そのため、スポーツの世界では使用が禁止されている物質でもあります。
また医薬品としても利用されており、
などの治療に応用されています。

女性ホルモンは主に卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の2種類に分かれます。これらの原料もコレステロールです。女性の身体は月経周期の中でホルモン分泌量が異なり、この2種類のホルモンも時期によって分泌量が変化します。
<卵胞ホルモン(エストロゲン)の働き>
エストロゲンは卵巣周期の中で卵胞期に多く分泌されます。そして、閉経を迎えるにしたがってその分泌量は少なくなっていきます。ご存知の方も多いと思いますが、「更年期障害」という症状は、このエストロゲンの分泌量が変化することで体の不調をきたした状態です。
また、骨がスカスカになる骨粗しょう症が女性に多いのも、エストロゲンの分泌量が低下することにあります。
<黄体ホルモン(プロゲステロン)の働き>
プロゲステロンは卵巣周期の中で黄体期に多く分泌されます。その作用により子宮内膜の分泌腺が活発となり、受精卵が着床しやすい状態になります。
さて、これら女性ホルモンを利用した医薬品については、ドーピング違反となる禁止物質ではありません。同じ「ステロイドホルモン」に分類される女性ホルモンですが、男性ホルモンと違ってスポーツ選手でも使用することが可能です。
従って、月経周期をコントロールしたり、ツライ生理痛に対して使用している女性アスリートもいます。
(※女性ホルモン自体は問題ありませんが、女性ホルモンの働きを抑えたり調節する様な薬は禁止物質に当たることがあります)
これは病院や薬局でよくもらうことのできる、いわゆる「ステロイド」のことと言えばわかりやすいでしょう。
糖質コルチコイド(コルチゾール・コルチコステロン)、電解質コルチコイド(アルドステロン)、副腎アンドロゲンの3種類がありますが、ここでは糖質コルチコイドに触れていきます。
働きとしては多様で、
といったものが認められています。
医薬品としては、免疫抑制作用や抗炎症作用、抗アレルギー作用があるため、膠原病や関節リウマチ・気管支喘息・花粉症・蕁麻疹・アトピー性皮膚炎など幅広い分野で活躍している薬です。飲み薬・塗り薬・点滴など様々な形で使用がされています。
この糖質コルチコイドについては、ドーピングの禁止物質に当たる場合があります。そして、投与経路や使用時期によっても使用可能の可否が変わってきます。
アスリートにとっては「筋肉増強剤」、一般の人にとっては「効果が高い強めの薬」、薬剤師にとっては「副腎皮質ステロイド」というイメージがついている場合が多いでしょう。
以前、とある学生アスリートからこんな相談を受けました。
「この薬、ステロイドってことは、使ってはいけない薬ではないですか?」
その時持っていた薬は「副腎皮質ステロイド」の軟膏でした。
副腎皮質ステロイド軟膏の「塗布」は禁止されていないため、アスリートでも使用することが可能です。「男性ホルモン」「アナボリックステロイド」だと使用が出来ません。
過去に、髭を濃くする目的で男性ホルモン含有軟膏を使用してドーピング規則違反となったアスリートがいます。
この学生さんは、「ステロイド」という言葉で「アナボリックステロイド」と「副腎皮質ステロイド」を混同してしまっていたのです。しかし、これは私たち医療関係者もスポーツの世界での使用可否については混同しているケースがあると思われます。
「ステロイド」と聞いたから使えないのではなく、どの分類のステロイドなのかを確認することが必要です。
「ステロイド」と、ひとくくりにして考えない方が良いでしょう。正しい認識でいることで、必要な治療を正しく受けることが出来ます。
~最後に一つ豆知識~
「ステロイドの軟膏で色素沈着により皮膚が黒くなる」は正しくありません
色素脱失といって、逆に白っぽくなることはあります。黒っぽくなるのは炎症後色素沈着といって、炎症によりメラニン色素が過剰産生されることが原因とされています。ステロイドが原因で色素沈着が起こるわけではありません。
今回は「ステロイド」というものについて書きました。ひとくくりにせず、それぞれが別のものであり、ドーピングの観点からもしっかり分けて考えるのが大切です。
「ステロイド」という薬に対する勘違い

「ステロイド」という薬に対する勘違い
こんにちは。ウィンゲートトレーニングセンター専属トレーナーの岡田英之です。昨日に引き続き投稿させて頂きます。
「ステロイド」という言葉を聞くとどの様な印象を持つでしょうか?
- 強い薬
- 筋肉が増える
- ドーピング
- あまり使いたくない
・・・など、様々な意見が出てくることでしょう。薬剤師として働いていると、体にとってあまり良くないイメージを持たれている方が多いように感じます。
ただ、ちまたで言われている副作用などには、事実とは異なるものもあります。また、「ステロイド」という単語だけが独り歩きしていて、色んな薬がひとくくりにされている印象も受けます。
今回は「ステロイド」という言葉について整理をし、正しく使用するための豆知識をお伝え致します。
そもそもステロイドとは?

高校の化学で見たような、嫌いな方には拒否反応が出る化学構造式の話です。
「ステロイド」とは構造式の中に「ステロイド骨格」という構造が含まれる物質のいわば総称です。そして、ステロイドはもともと体の中に存在する物質でもあります。
<ステロイド骨格を含む体内の物質>
- 男性ホルモン(テストステロン)
- 女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)
- 副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド、電解質コルチコイド、副腎アンドロゲン)
- コレステロール
それぞれ体の中で重要な役割を果たしている物質です。
各々その役割と薬として使用した場合の効果は異なるため、それぞれ別物としてご理解ください。
男性ホルモン(テストステロン)

主に男性の精巣から分泌されるホルモンです。女性の体内でもわずかに合成されています。原料はコレステロールで、体内で複雑な経路をたどって合成されます。
その作用は次の通りで、
- 筋肉や骨格の発達
- 思春期の男性性器の発育・体毛の成長・声変わり
- 精神面への影響
- 精子形成
などが知られています。男性の方が女性と比べて筋肉質であるのは男性ホルモンの影響です。
筋肉の成長促進作用があり、ドーピングの世界では「アナボリックステロイド」、いわゆる「筋肉増強ステロイド」として知られているものです。そのため、スポーツの世界では使用が禁止されている物質でもあります。
また医薬品としても利用されており、
- 男子性腺機能不全
- 造精機能障害による男子不妊症
- 再生不良性貧血
- 腎性貧血
などの治療に応用されています。
女性ホルモン

女性ホルモンは主に卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の2種類に分かれます。これらの原料もコレステロールです。女性の身体は月経周期の中でホルモン分泌量が異なり、この2種類のホルモンも時期によって分泌量が変化します。
<卵胞ホルモン(エストロゲン)の働き>
- 子宮に作用し、妊娠に適した環境にしていく
- 乳腺の発育促進
- 骨を強くする
- 女性らしい身体を作る
- 卵胞の発育促進
エストロゲンは卵巣周期の中で卵胞期に多く分泌されます。そして、閉経を迎えるにしたがってその分泌量は少なくなっていきます。ご存知の方も多いと思いますが、「更年期障害」という症状は、このエストロゲンの分泌量が変化することで体の不調をきたした状態です。
また、骨がスカスカになる骨粗しょう症が女性に多いのも、エストロゲンの分泌量が低下することにあります。
<黄体ホルモン(プロゲステロン)の働き>
- 妊娠を維持する
- 体温上昇
- 排卵抑制
- 乳腺の発育促進
プロゲステロンは卵巣周期の中で黄体期に多く分泌されます。その作用により子宮内膜の分泌腺が活発となり、受精卵が着床しやすい状態になります。
さて、これら女性ホルモンを利用した医薬品については、ドーピング違反となる禁止物質ではありません。同じ「ステロイドホルモン」に分類される女性ホルモンですが、男性ホルモンと違ってスポーツ選手でも使用することが可能です。
従って、月経周期をコントロールしたり、ツライ生理痛に対して使用している女性アスリートもいます。
(※女性ホルモン自体は問題ありませんが、女性ホルモンの働きを抑えたり調節する様な薬は禁止物質に当たることがあります)
副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド)
これは病院や薬局でよくもらうことのできる、いわゆる「ステロイド」のことと言えばわかりやすいでしょう。
糖質コルチコイド(コルチゾール・コルチコステロン)、電解質コルチコイド(アルドステロン)、副腎アンドロゲンの3種類がありますが、ここでは糖質コルチコイドに触れていきます。
働きとしては多様で、
- 血糖値の上昇
- タンパク質・脂肪分解の促進
- 抗炎症作用・抗アレルギー作用
- 胃酸分泌促進
- 抗ストレス作用
といったものが認められています。
医薬品としては、免疫抑制作用や抗炎症作用、抗アレルギー作用があるため、膠原病や関節リウマチ・気管支喘息・花粉症・蕁麻疹・アトピー性皮膚炎など幅広い分野で活躍している薬です。飲み薬・塗り薬・点滴など様々な形で使用がされています。
この糖質コルチコイドについては、ドーピングの禁止物質に当たる場合があります。そして、投与経路や使用時期によっても使用可能の可否が変わってきます。
ステロイドに対する勘違い
アスリートにとっては「筋肉増強剤」、一般の人にとっては「効果が高い強めの薬」、薬剤師にとっては「副腎皮質ステロイド」というイメージがついている場合が多いでしょう。
以前、とある学生アスリートからこんな相談を受けました。
「この薬、ステロイドってことは、使ってはいけない薬ではないですか?」
その時持っていた薬は「副腎皮質ステロイド」の軟膏でした。
副腎皮質ステロイド軟膏の「塗布」は禁止されていないため、アスリートでも使用することが可能です。「男性ホルモン」「アナボリックステロイド」だと使用が出来ません。
過去に、髭を濃くする目的で男性ホルモン含有軟膏を使用してドーピング規則違反となったアスリートがいます。
この学生さんは、「ステロイド」という言葉で「アナボリックステロイド」と「副腎皮質ステロイド」を混同してしまっていたのです。しかし、これは私たち医療関係者もスポーツの世界での使用可否については混同しているケースがあると思われます。
「ステロイド」と聞いたから使えないのではなく、どの分類のステロイドなのかを確認することが必要です。
「ステロイド」と、ひとくくりにして考えない方が良いでしょう。正しい認識でいることで、必要な治療を正しく受けることが出来ます。
~最後に一つ豆知識~
「ステロイドの軟膏で色素沈着により皮膚が黒くなる」は正しくありません
色素脱失といって、逆に白っぽくなることはあります。黒っぽくなるのは炎症後色素沈着といって、炎症によりメラニン色素が過剰産生されることが原因とされています。ステロイドが原因で色素沈着が起こるわけではありません。
今回は「ステロイド」というものについて書きました。ひとくくりにせず、それぞれが別のものであり、ドーピングの観点からもしっかり分けて考えるのが大切です。