
2018.07.13

スポーツの世界で使用が禁止されているものとは?

こんにちは。ウィンゲートトレーニングセンター、専属トレーナーの岡田英之です。
これまでに何回か「アンチ・ドーピング」のお話をさせて頂きました。
スポーツと薬~スポーツファーマシストの存在~
アンチ・ドーピングのルールを知ろう!①
アンチ・ドーピングのルールを知ろう!②
主に「してはいけないこと」についてのルールを紹介しましたが、アスリートが「やれること」のルールについても触れていきたいと思います。

「やれること」を紹介すると言っておきながら「禁止表」などという「してはいけないこと」のお話となりますが、これは「やれること」を知るための重要なルールです。
この基準は世界アンチ・ドーピング規定(CODE)が定めるスポーツの世界で使用が禁止されている物質と方法が掲載されている規定です。
大きく「常に禁止される物質と方法」「競技会時に禁止される物質と方法」「特定競技において禁止される物質」に分かれ、さらにそれぞれ細かく分かれて記載がされています。
S0~S5の物質とM1~M3の方法に分かれています。
S0.無承認物質
・ヒトへの治療目的使用が現在どの国でも承認されていない物質。
・例えば、開発中の薬・開発が中止になった薬物・デザイナードラッグ・動物にしか使用が認められていない物質など。
S1.蛋白同化薬
・いわゆる「筋肉増強」のステロイドのことです。男性ホルモン(テストステロン)などが該当します。
※ステロイドについては以前の投稿を参照ください。ステロイドという薬に対する勘違い
S2.ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質
・エリスロポエチン:赤血球を増やす働きのあるホルモン。薬としては貧血の治療で使われますが、赤血球を増やすため持久力UPの目的でドーピングに使用されます。
・他、成長ホルモンなど
S3.ベータ2作用薬
・気管支を広げる作用があり、気管支喘息の治療薬として広く使用されている薬。交感神経の興奮作用や蛋白同化作用が認められるため禁止されます。
・ただし、以下の3つにおいては用法を守って使用する限りは使用が認められています。
〇吸入サルブタモール(商品名:サルタノールインヘラー)
〇吸入ホルモテロール(商品名:シムビコートタービュヘイラー、フルティフォームエアゾール)
〇吸入サルメテロール(商品名:セレベント、アドエア)
S4.ホルモン調節薬および代謝調節薬
・アロマターゼ阻害薬(乳がんの治療薬)
・選択的エストロゲン受容体調節薬(乳がん、骨粗鬆症の薬)
・抗エストロゲン作用を持つ薬(排卵誘発薬クロミフェンなど)
・インスリン(糖尿病の治療薬。蛋白同化作用もあるため禁止される)
S5.利尿薬および隠蔽薬
・減量目的で使用されたり、尿量を増やすことで禁止物質の濃度を薄める目的で使われるため禁止されています。
・高血圧などの循環器疾患で使用されたり、高尿酸血症で尿酸の排泄を促進する薬などがあります。
M1.血液および血液成分の操作
・自己血輸血:自分の血液を抜いた状態でトレーニングをすると、身体はそれを補うため造血を促します。元の状態に戻った後に、あらかじめ抜いておいた血液を戻すことで赤血球の量が増えるため、持久力UPが期待できるため禁止されます。
M2.化学的および物理的操作
・尿のすり替えなどの行為
・点滴(12時間あたり100mLを超える場合)。ただし、入院施設のある病院で、入院や手術、臨床検査の過程で正当に受ける場合は除きます。
M3.遺伝子ドーピング
・競技に有利になるような遺伝子を体に入れたりする行為。
①に加えて、S6~S9が禁止されます。
S6.興奮薬
・メチルエフェドリンなどのエフェドリン類(風邪薬・鼻炎薬・咳止めに含まれる場合が非常に多い)
S7.麻薬
・モルヒネなどのいわゆる麻薬。
S8.カンナビノイド
・大麻です。日本ではそもそも所持することは禁止されています。
S9.糖質コルチコイド
・副腎皮質ステロイドと呼ばれている薬です。
・全身投与になる方法(経口・静脈内・筋肉内・経直腸)が禁止されます。
競技会時に限って禁止されますが、指示がある場合は競技会外でも禁止される場合があります。
P1.ベータ遮断薬
・脈を落ち着かせる作用があります。高血圧や不整脈、動悸、緑内障の治療で使用されます。
・アーチェリー、自動車、ビリヤード、ダーツ、ゴルフ、射撃などの競技で禁止されます。

禁止表国際基準の中身を詳しく見ると、薬剤師などの専門家ではない限りただのカタカナの羅列です。
身近に感じられるものではないため、結局のところ何がダメなのかがわかりにくいです。
・・・が、喘息の薬や風邪薬・鼻炎薬・咳止め・高血圧の薬・糖尿病で使うインスリンなど、そこまで現実とかけ離れた内容の薬ではないことは理解できるのではないでしょうか?
実際に市販の風邪薬を使用したことで大会を欠場したアスリートもいますし、違反となり制裁を科された選手もいます。
・・・ちなみに
禁止されていなかったものが禁止表に追加になったり、逆に禁止されていたものが使えるようになったりします。常に最新の情報を持っておくことが重要です。
では、風邪薬なんかは代わりになるものはたくさんありますが、病気の治療のために必要な薬が禁止物質に該当した場合にはどうすれば良いのか?
それこそが「アスリートがやれること」「アスリートが行使できる権利」です。
今回は禁止表国際基準の話で目一杯になってしまいましたので、そんな話を次回はご紹介したいと思います。
これまでに何回か「アンチ・ドーピング」のお話をさせて頂きました。
スポーツと薬~スポーツファーマシストの存在~
アンチ・ドーピングのルールを知ろう!①
アンチ・ドーピングのルールを知ろう!②
主に「してはいけないこと」についてのルールを紹介しましたが、アスリートが「やれること」のルールについても触れていきたいと思います。
禁止表国際基準

「やれること」を紹介すると言っておきながら「禁止表」などという「してはいけないこと」のお話となりますが、これは「やれること」を知るための重要なルールです。
この基準は世界アンチ・ドーピング規定(CODE)が定めるスポーツの世界で使用が禁止されている物質と方法が掲載されている規定です。
大きく「常に禁止される物質と方法」「競技会時に禁止される物質と方法」「特定競技において禁止される物質」に分かれ、さらにそれぞれ細かく分かれて記載がされています。
①常に禁止される物質と方法
S0~S5の物質とM1~M3の方法に分かれています。
S0.無承認物質
・ヒトへの治療目的使用が現在どの国でも承認されていない物質。
・例えば、開発中の薬・開発が中止になった薬物・デザイナードラッグ・動物にしか使用が認められていない物質など。
S1.蛋白同化薬
・いわゆる「筋肉増強」のステロイドのことです。男性ホルモン(テストステロン)などが該当します。
※ステロイドについては以前の投稿を参照ください。ステロイドという薬に対する勘違い
S2.ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質
・エリスロポエチン:赤血球を増やす働きのあるホルモン。薬としては貧血の治療で使われますが、赤血球を増やすため持久力UPの目的でドーピングに使用されます。
・他、成長ホルモンなど
S3.ベータ2作用薬
・気管支を広げる作用があり、気管支喘息の治療薬として広く使用されている薬。交感神経の興奮作用や蛋白同化作用が認められるため禁止されます。
・ただし、以下の3つにおいては用法を守って使用する限りは使用が認められています。
〇吸入サルブタモール(商品名:サルタノールインヘラー)
〇吸入ホルモテロール(商品名:シムビコートタービュヘイラー、フルティフォームエアゾール)
〇吸入サルメテロール(商品名:セレベント、アドエア)
S4.ホルモン調節薬および代謝調節薬
・アロマターゼ阻害薬(乳がんの治療薬)
・選択的エストロゲン受容体調節薬(乳がん、骨粗鬆症の薬)
・抗エストロゲン作用を持つ薬(排卵誘発薬クロミフェンなど)
・インスリン(糖尿病の治療薬。蛋白同化作用もあるため禁止される)
S5.利尿薬および隠蔽薬
・減量目的で使用されたり、尿量を増やすことで禁止物質の濃度を薄める目的で使われるため禁止されています。
・高血圧などの循環器疾患で使用されたり、高尿酸血症で尿酸の排泄を促進する薬などがあります。
M1.血液および血液成分の操作
・自己血輸血:自分の血液を抜いた状態でトレーニングをすると、身体はそれを補うため造血を促します。元の状態に戻った後に、あらかじめ抜いておいた血液を戻すことで赤血球の量が増えるため、持久力UPが期待できるため禁止されます。
M2.化学的および物理的操作
・尿のすり替えなどの行為
・点滴(12時間あたり100mLを超える場合)。ただし、入院施設のある病院で、入院や手術、臨床検査の過程で正当に受ける場合は除きます。
M3.遺伝子ドーピング
・競技に有利になるような遺伝子を体に入れたりする行為。
②競技会時に禁止される物質と方法
①に加えて、S6~S9が禁止されます。
S6.興奮薬
・メチルエフェドリンなどのエフェドリン類(風邪薬・鼻炎薬・咳止めに含まれる場合が非常に多い)
S7.麻薬
・モルヒネなどのいわゆる麻薬。
S8.カンナビノイド
・大麻です。日本ではそもそも所持することは禁止されています。
S9.糖質コルチコイド
・副腎皮質ステロイドと呼ばれている薬です。
・全身投与になる方法(経口・静脈内・筋肉内・経直腸)が禁止されます。
③特定競技において禁止される物質
競技会時に限って禁止されますが、指示がある場合は競技会外でも禁止される場合があります。
P1.ベータ遮断薬
・脈を落ち着かせる作用があります。高血圧や不整脈、動悸、緑内障の治療で使用されます。
・アーチェリー、自動車、ビリヤード、ダーツ、ゴルフ、射撃などの競技で禁止されます。
身近な物質も記載されている!

禁止表国際基準の中身を詳しく見ると、薬剤師などの専門家ではない限りただのカタカナの羅列です。
身近に感じられるものではないため、結局のところ何がダメなのかがわかりにくいです。
・・・が、喘息の薬や風邪薬・鼻炎薬・咳止め・高血圧の薬・糖尿病で使うインスリンなど、そこまで現実とかけ離れた内容の薬ではないことは理解できるのではないでしょうか?
実際に市販の風邪薬を使用したことで大会を欠場したアスリートもいますし、違反となり制裁を科された選手もいます。
・・・ちなみに
禁止表国際基準は最低でも年に1回(1月1日施行)は更新されます!!
禁止されていなかったものが禁止表に追加になったり、逆に禁止されていたものが使えるようになったりします。常に最新の情報を持っておくことが重要です。
では、風邪薬なんかは代わりになるものはたくさんありますが、病気の治療のために必要な薬が禁止物質に該当した場合にはどうすれば良いのか?
それこそが「アスリートがやれること」「アスリートが行使できる権利」です。
今回は禁止表国際基準の話で目一杯になってしまいましたので、そんな話を次回はご紹介したいと思います。