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2018.09.04

基準を持つということ【トレーナー向け記事】

こんにちは。東京都板橋区にある運動総合施設ウィンゲートトレーニングセンターのアドバイザリースタッフ紀平です。
私は2013年まで約10年にわたって社会人アメリカンフットボールXリーグの、とあるチームに所属してトレーナーを務めていました。
トレーナーといえばチームの誰よりも(選手はもちろん、監督よりも)早く練習場に来て準備をし、時には誰よりも遅く帰る仕事です。暑い日には水と氷をたくさん準備して、それらを持って練習場を駆け巡る。そういったフィジカルの大変さがあります。
しかし、もっと大変だと感じたのは、フィジカルではなくメンタル。
意思決定の大変さについてです。
それまでに求められたスキルは目の前の選手のケガが何かがわかれば良い程度でしたが、上記チームではそのケガがどの程度かがわかり、どれくらいで復帰できるかまで求められるようになりました。
しかし、それらのことは教科書には書いてないし、選手個々人で異なると考えていました。
だからこそ、毎回意思決定に追われて、疲れてしまったのです。

今日はそんな経験から気付いた、基準を持つということの重要性について、書いていきます。

 

状況を個別に判断し対応している




選手がケガをした時には、ケガの内容とその程度を評価します。
そこから競技復帰までの道すじを、チームドクターの先生も交えて考えていくのは当然です。

選手はそれぞれに年齢も体力も性格も違うので
同じケガでも異なった状態にあると考えて
対応を個別に行います

このこと自体は、何ら悪くなく
むしろ勧められるべきことだと思います。
画一的に何かを実施するよりも、効果的かもしれません。

しかし、その選手が復帰した後に
一連の介入が効果的だったかどうか振り返ることができるでしょうか?

選手が満足して復帰したから、効果的なのでしょうか?
再受傷なく復帰したから、効果的なのでしょうか?
これまでの経験より早く復帰したから、効果的なのでしょうか?

多くのトレーナーさんが
「再受傷させることなく、これまでの経験より早く復帰した」から
効果的だったと考えるでしょう。

ただ「これまでの経験」に基準があるでしょうか?
明確な基準を持っていないと
どうしても結果の評価を心象に頼ってしまいがちです。

リハビリに付き合った選手が
復帰後の練習や試合で活躍するのを見ると
「よかった~」と感傷的になりますよね。

復帰した選手が従順にリハビリを進めてくれて
リハビリがトレーナーと選手にとって楽しい時間になると
なんとなく短い期間に感じてしまうこともあるでしょう。

あるいは(仮設確証バイアスが生じるので)
基準となる期間を明確に意識することがなかったとすれば
自分のやっていることは今回も効果的だったと捉えてしまうでしょう。

もちろん、いずれも悪いことではないのですが
本当にもっと早く安全に復帰させることはできなかったでしょうか?

個々の選手が違うから、個別に対応するのは良いことです。
ただし、毎回対応方法に変化を付けていると
どれくらいなら復帰が早い/遅いのか
自らの経験から基準を持つことができず
正しく結果を評価できない可能性があります

常に自分が臨機応変に対応していると
視点がブレてしまうので
結果が正しく評価できないのです。

それを逃れる方法は
これまでのデータを俯瞰して
恣意性を外して数値として扱うことです。
つまり統計的に処理することなのですが
これは研究に触れたことのある人にしか難しいでしょう。

 

基準を持つ




では、その他に基準を持つ方法は何でしょうか?

その一つは、先人の知恵を借りることだと考えています。

世界中の多くのトレーナーさん(や、その関連職種の人)が
同じようなケガをたくさん診ていて、論文として報告してくれています。

しかも、自分よりもよっぽど頭が良い人ばかりです。
(文章を読む限り私はそう感じさせられます)


それを利用して
どのようなタイプのどの程度のケガに対して
どのような介入方法が効果的だとされているのか
先に調べておくことです。

そして科学的方法が書かれた論文を基準にして
それよりも早期に復帰したのか、それよりも遅く復帰したのかを見分けることで
今後の介入方法について再検討していくことです。

 

問題なのは、基準を守るか否か、ではない


ここまで読んでくれた、多くのトレーナーさんは

基準通りに実施したのでは、選手の個別性に対応できない!

と思うでしょう。

私もその通りだと思います。
ですから、私は基準を意識して、あえて基準から外れることが多くあります。

しかし
基準を持っていると、基準から外れることを意識します。
明確な基準を持っていない時は
なんとなく持っている基準から外れることが、ほとんどありませんでした。
つまり、なんとなく直感的な個別対応をしていたのです。

今は、違います。
明確に持った基準から外れる時には
選手のどの個別性を考慮して基準から外れるのかを意識します。

そのような経験が貯まってくると
どのような個性に対して、どのような対応をすると良さそうか
個別性に応じた経験が蓄積されてきています。

問題なのは、基準を守るかどうかではありません。
基準を設けておいて、そこから外れる時に、そのことを意識することなのです。



現在、私は大学女子ラクロスのチームトレーナー、草アメフトのリーグトレーナー等として
スポーツ現場でトレーナー活動を続けています。
その他、柔道整復師の資格を生かして、臨床業務を実施しています。
また、パーソナルトレーニングも行なっています。

いろいろな業務で基準を意識することで
今ではXリーグの時に感じていたストレスはほとんど感じることがありません。
もちろん、競技レベルは違うのですが
また別の次元でのストレスを感じながら、業務を改善していけていると感じています。