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2018.07.31

慢性腰痛を治療した魔法の薬

こんにちは。東京都板橋区にある運動総合施設ウィンゲートトレーニングセンターのアドバイザリースタッフ紀平です。
今日は、少し前(2016年)の話になりますが、衝撃的な内容の論文についての解説です。
衝撃的な内容。それは、慢性腰痛を治療した魔法の薬についてです。
どのような魔法の薬が慢性腰痛を楽にしたのでしょうか?

 

今日は、その内容について、できる限り簡単に説明します。
それを理解するために、まずは「プラセボ」という言葉を知る必要があります。

 

「プラセボ」とは?




プラセボとは、いわゆる「偽薬(ぎやく)」のことです。

たとえば、薬の効果を調べるのに、薬を飲んだ人たちと薬を飲んでない人たちを比べると
薬を飲んだ人たちは、薬の作用だけでなく
「薬を飲んだ」と思うことで、症状が楽になるかもしれません。
あるいは薬を飲んでいない人たちが
「薬を飲めなかった」からと、症状が軽減しづらいかもしれません。

そのため、薬の効果を調べるために
本当の薬を飲む人たちと、偽薬(プラセボ)を飲む人たちに分ければ
つまり、薬のカプセルの中身以外のほとんど全てを同じ条件にすれば
薬の効果について、しっかりと調べられることになります。

これが転じて実際の医療では
薬や治療などの本当の効果はもちろんのこと
「薬を飲んだ」「治療を受けた」と思うことで楽になる効果(プラセボ効果)も利用して
最大限クライアントに良くなってもらおうと考えられることがあります。

ただし、プラセボ効果が期待できるのは
薬や治療による本当の効果があってこそ、と考えられてきました。

 

魔法の薬とは


この研究で用いられた慢性腰痛を治療する魔法の薬の内容を紹介しましょう。
それは…

微結晶性セルロースをスウェーデン産オレンジゼラチンのカプセルに詰めたもの
Swedish Orange gelatin capsules filled with microcrystalline cellulose

です。

もっと端的に言い換えると
砂糖入カプセル
です。
そう、つまりはプラセボです。

しかも、飲んでもらう人たちにあらかじめ「これはプラセボですよ!」と説明しました。
それでも慢性腰痛は軽減したのです!

 

研究の結果


この研究では、従来の腰痛の治療に加えて
プラセボと知らされて理解した上で3週間にわたってプラセボを飲んだ人たちと
従来の治療のみの人たちとを比べました。

その結果、従来の治療に加えてプラセボを飲んだ人たちのほうが
従来の治療のみだった人たちと比べて
明らかに腰痛の程度が軽減し、日常生活の質が向上したのです。

ただし、この研究に参加した人たちには、事前に15分間の説明がありました。
それは…

1.プラセボの効果は強力であり得る

2.身体は自動的にプラセボに反応する
(それは、まるでパブロフの犬がベルの音を聞いてヨダレを垂らすように)

3.前向きな態度が有益である、が、必須ではない

4.プラセボを忠実に3週間飲むことが重要である

というものでした。

さらに、過敏性腸症候群という病気を持ち、プラセボによる治療を受けた人たちの
1分25秒のテレビでのインタビュー動画を見させられました。

その上で、従来の治療に加えて、プラセボと理解してプラセボを飲む人たちと
従来の治療のみの人たちとに別れて実験が進められました。

結果は上に書いたとおり
プラセボを飲んだ人たちのほうが
従来の治療のみだった人たちと比べて
明らかに腰痛の程度が軽減し、日常生活の質が向上しました。

さらに驚くべきことに!
従来の治療のみの人たちは
実験開始から3週間後、つまり従来の治療のみ受けた後に
3週間にわたってプラセボを飲みました。
そうすると、やはり腰痛は軽減したのです。

 

なぜ慢性腰痛が治ったのか




論文ではプラセボが慢性腰痛の治療に効果があった理由は書かれていません。

ので、ここからは他の情報も加えて解説します。

この治療(?)が奏功した理由を考えるためには
そもそも慢性腰痛について理解する必要があります。
慢性腰痛は、これまで以上に心理・社会的要因が深く関与していると考えられるようになってきています。
たとえば、精神的負担が大きいと慢性腰痛を訴えやすかったり
金銭の授受によって訴えに大きな違いがあることが明らかになっています。

さらに、慢性腰痛の治療として
テレビCMや雑誌広告、街頭ポスターなどで
活動的にすること、安静にしないことなどを有名人が訴えたところ
腰痛関連の医療費が15%も削減したことという社会実験があります。

そしてこの社会実験は
一つの地区だけでなく、複数の国で実施されて同等の効果をおさめたのです。

つまり、慢性腰痛の一部は
薬を使わなくても、リハビリをしなくても、改善することがあるのです。
これは慢性腰痛がこれまで考えられてきた以上に心理・社会的要因が深く関与している証拠です。

このような背景を踏まえると
偽薬そのものの効果というよりは
きちんと説明してもらったことの効果や
既にプラセボで効果があった人たちのインタビュー動画を見たことによる影響が
強く働いたのではないかと考えることができます。

これを悪用して、効果がないことを実践しよう!とは私たちは考えません。笑
既に効果が証明されているものを
より効果を実感していただけるように
丁寧な説明を実施して納得して利用していただきたいと考えています。

つまり、上手にプラセボ効果も利用していただきたい!ということです。


原文はこちらから。
Open-label placebo treatment in chronic low back pain: A randomized controlled trial
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5113234/pdf/jop1-157-2766.pdf