
2018.06.08

こんにちは。ウィンゲートトレーニングセンター、専属トレーナーの岡田英之です。
前回は痛みの種類と非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)について投稿し、NSAIDsが効く痛みは「侵害受容性疼痛」であるとご紹介させて頂きました。
痛み止めとうまく付き合うために①
それでは、今回はNSAIDsのより詳しい使い方と注意点について紹介していきます。

前回の投稿で、
ということを紹介しました。
そしてプロスタグランジン(PG)は実に様々な働きをする物質であり、
などが認められています。
・・・ということは、PGの合成を抑えるNSAIDsはこれとは逆の方向へ働きます。
つまり、
という具合に、痛みや炎症を抑える以外の作用も出てくるのです。
実際の医療現場でもこの作用を利用した治療がされており、低用量のアスピリンは「狭心症や心筋梗塞による血栓・塞栓形成を抑制する」ために使用されます。
ではNSAIDsの代表格であるロキソプロフェン錠(商品名:ロキソニンなど)の添付文書(医薬品の使い方や副作用などの情報が載っている文書)を見てみると、次のようなことが書かれています。
<禁忌(次の患者には投与しないこと)>
これを見ると、この様な人には使ってはいけないというのは何となく想像できるでしょう。ただ、あまり身近にはいないかもしれません。
しかし、「重篤な」状態ではなくても使用をすすめられない場合があります。

フルマラソンを走る時など、大量に汗をかくような環境で長時間運動する場合はNSAIDsの使用に関して注意が必要です。
NSAIDsはPGの合成を抑制しますが、PGは血管拡張作用があり血流を良くします。つまり、大量の発汗で血流が悪くなったところにPGの合成が抑制されることで、さらに血流が悪くなってしまいます。
特に注意するのは腎臓への影響です。腎臓の血管にもPGは作用しますが、これを抑制してしまうため腎臓の血流が悪くなり腎機能の悪化を招く可能性があります。
また、運動中は筋肉への血液配分が増えるため、胃などの消化管への血流量が減ります。その状態でNSAIDsを使用することもまた、消化管への血流量をさらに減らすことになります。したがって、安静時よりも胃へのダメージが起こりやすくなることが考えられます。
このように、気軽に使える痛み止めでも運動時には本当に必要かどうかを慎重に判断して利用することをお勧めします。そして使用する場合は確実に水分摂取をする必要もあります。
「胃に負担がかかる」とご紹介してきたので、これについてはご理解頂けることでしょう。このような状態でNSAIDsを使うとさらに症状を悪化させる可能性があります。
胃の痛み・腹痛で使用する薬は原因によって下記のものが使われます。
また、胃腸炎の場合はまず「何も食べない」ことも大切です。お腹が空くまでは水分補給のみにし、消化の良いゼリーやうどんから食べ始めましょう。

「アスピリン喘息」という持病をお持ちの方は痛み止めにより発作が誘発されるため、十分に注意をされていることかと思います。そうではない「気管支喘息」の方も症状が悪化する可能性があるためNSAIDsの使用には注意が必要です。
主治医によっては、指定した痛み止め以外は使わない様に指示をしていることもあります。
少し専門的な内容になりますが、体内にはロイコトリエン(LT)という物質があり、これもまた様々な役割を果たしています。その中で「気管支を収縮させる」という働きを持つのですが、これが喘息の方にとっては天敵です。
(※喘息の治療ではロイコトリエン(LT)の作用を邪魔する薬を使います)
ロイコトリエン(LT)は体内でアラキドン酸という脂肪酸から作られますが、先述したプロスタグランジン(PG)も同じくアラキドン酸から合成されます。
ではNSAIDsを投与するとどうなるか?
アラキドン酸から合成される物質がLTの方へシフトするため、通常より多くのLTが産生されることになります。つまり、気管支収縮作用のあるLTが増えることにより気道閉塞が進み、喘息の状態が悪化する恐れがあるのです。
従って、気管支喘息の方が痛み止めを使う場合には喘息コントロールの状況などを確認し、主治医の先生の指示を受けた上で使用することが望ましいです。
アセトアミノフェンという成分の痛み止めは比較的影響が少なく使用が出来るとされています。
この様に、痛いからとりあえず「痛み止め」という考え方は一旦ストップし、本当に必要かどうか・その痛みに合った薬かどうかを判断するようにしましょう。
痛み止めは多大なる恩恵をもたらしますが、場合によってはリスクになることもあるのです。
痛み止めとうまく付き合うために②

痛み止めとうまく付き合うために②
こんにちは。ウィンゲートトレーニングセンター、専属トレーナーの岡田英之です。
前回は痛みの種類と非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)について投稿し、NSAIDsが効く痛みは「侵害受容性疼痛」であるとご紹介させて頂きました。
痛み止めとうまく付き合うために①
それでは、今回はNSAIDsのより詳しい使い方と注意点について紹介していきます。
NSAIDsの豆知識

前回の投稿で、
- ◇NSAIDsは発痛増強物質であるプロスタグランジン(PG)の合成を抑制することでその効果を発揮する
- ◇プロスタグランジンは胃の粘膜を保護する役割も持つため、NSAIDsは胃に負担がかかる
ということを紹介しました。
そしてプロスタグランジン(PG)は実に様々な働きをする物質であり、
- ◇血小板の凝集
- ◇子宮の収縮
- ◇血管拡張作用
などが認められています。
・・・ということは、PGの合成を抑えるNSAIDsはこれとは逆の方向へ働きます。
つまり、
- ◇血小板凝集の抑制→出血傾向
- ◇血管拡張の抑制→血圧上昇・血流量低下
という具合に、痛みや炎症を抑える以外の作用も出てくるのです。
実際の医療現場でもこの作用を利用した治療がされており、低用量のアスピリンは「狭心症や心筋梗塞による血栓・塞栓形成を抑制する」ために使用されます。
ではNSAIDsの代表格であるロキソプロフェン錠(商品名:ロキソニンなど)の添付文書(医薬品の使い方や副作用などの情報が載っている文書)を見てみると、次のようなことが書かれています。
<禁忌(次の患者には投与しないこと)>
- ①消化性潰瘍のある患者
- ②重篤な血液の異常のある患者
- ③重篤な肝障害のある患者
- ④重篤な腎障害のある患者
- ⑤重篤な心機能不全のある患者
- ⑥本剤の成分に過敏症のある患者
- ⑦アスピリン喘息
- ⑧妊娠末期の婦人
これを見ると、この様な人には使ってはいけないというのは何となく想像できるでしょう。ただ、あまり身近にはいないかもしれません。
しかし、「重篤な」状態ではなくても使用をすすめられない場合があります。
長時間運動する場合は注意が必要

フルマラソンを走る時など、大量に汗をかくような環境で長時間運動する場合はNSAIDsの使用に関して注意が必要です。
大量に汗をかく
↓
体内の水分量が減るため、血液が濃くなる(大げさに言うとドロドロになる)
↓
血流が悪くなる
NSAIDsはPGの合成を抑制しますが、PGは血管拡張作用があり血流を良くします。つまり、大量の発汗で血流が悪くなったところにPGの合成が抑制されることで、さらに血流が悪くなってしまいます。
特に注意するのは腎臓への影響です。腎臓の血管にもPGは作用しますが、これを抑制してしまうため腎臓の血流が悪くなり腎機能の悪化を招く可能性があります。
また、運動中は筋肉への血液配分が増えるため、胃などの消化管への血流量が減ります。その状態でNSAIDsを使用することもまた、消化管への血流量をさらに減らすことになります。したがって、安静時よりも胃へのダメージが起こりやすくなることが考えられます。
このように、気軽に使える痛み止めでも運動時には本当に必要かどうかを慎重に判断して利用することをお勧めします。そして使用する場合は確実に水分摂取をする必要もあります。
他に使用が勧められない場合
①胃腸炎・胃痛の時
「胃に負担がかかる」とご紹介してきたので、これについてはご理解頂けることでしょう。このような状態でNSAIDsを使うとさらに症状を悪化させる可能性があります。
胃の痛み・腹痛で使用する薬は原因によって下記のものが使われます。
- ◇胃の運動を抑制する薬(例:ブチルスコポラミンなど)
- ◇胃酸を抑える薬(例:ファモチジンなど)
- ◇胃の粘膜を保護する薬(例:テプレノンなど)
また、胃腸炎の場合はまず「何も食べない」ことも大切です。お腹が空くまでは水分補給のみにし、消化の良いゼリーやうどんから食べ始めましょう。
②喘息の方

「アスピリン喘息」という持病をお持ちの方は痛み止めにより発作が誘発されるため、十分に注意をされていることかと思います。そうではない「気管支喘息」の方も症状が悪化する可能性があるためNSAIDsの使用には注意が必要です。
主治医によっては、指定した痛み止め以外は使わない様に指示をしていることもあります。
少し専門的な内容になりますが、体内にはロイコトリエン(LT)という物質があり、これもまた様々な役割を果たしています。その中で「気管支を収縮させる」という働きを持つのですが、これが喘息の方にとっては天敵です。
(※喘息の治療ではロイコトリエン(LT)の作用を邪魔する薬を使います)
ロイコトリエン(LT)は体内でアラキドン酸という脂肪酸から作られますが、先述したプロスタグランジン(PG)も同じくアラキドン酸から合成されます。
ではNSAIDsを投与するとどうなるか?
アラキドン酸から合成される物質がLTの方へシフトするため、通常より多くのLTが産生されることになります。つまり、気管支収縮作用のあるLTが増えることにより気道閉塞が進み、喘息の状態が悪化する恐れがあるのです。
従って、気管支喘息の方が痛み止めを使う場合には喘息コントロールの状況などを確認し、主治医の先生の指示を受けた上で使用することが望ましいです。
アセトアミノフェンという成分の痛み止めは比較的影響が少なく使用が出来るとされています。
この様に、痛いからとりあえず「痛み止め」という考え方は一旦ストップし、本当に必要かどうか・その痛みに合った薬かどうかを判断するようにしましょう。
痛み止めは多大なる恩恵をもたらしますが、場合によってはリスクになることもあるのです。